2012年10月3日水曜日

フー・マンチュー博士

小説、映画「フー・マンチュー博士」シリーズに登場。

フー・マンチュー博士(Dr.Fu Manchu、傅満洲博士とも)と呼ばれ、西洋による支配体制の破壊と、
東洋人による世界征服を目指して陰謀をめぐらす中国人。長身痩躯を中国服と中国帽に包み、
爪とドジョウ髭を長く伸ばし、常に悪魔のような表情をたたえている怪人物。
ヨーロッパの三つの大学、ハイデルベルグ、ソルボンヌ、エジンバラで隠秘学、化学、医学、物理学の学位を
取得するなど非常に明晰な頭脳を持つが、性格は狡猾で極めて残忍。
人並み外れた統率力で中国においては〈拳匪〉、インドでは〈暗殺団(ザックス)〉を組織、その黒幕として君臨した。
元々は秘密結社の長であるシ・ファン(Si-Fan)配下の暗殺者であり、後に麻薬と白人奴隷によって財を為した
シ・ファンから資金援助を受け、急速に頭角を現して秘密結社の長に上り詰めた。
霊液エリクシルを服用することで自らの寿命を延ばし続けており、長期に渡って東洋西洋の裏社会で暗躍している。
彼の立案する殺人計画は、一見不可解な方法を大規模に展開するという点が特徴的である。
銃撃や爆殺を軽蔑し、短剣や武道、毒蛇や毒虫、毒性の菌類などによる暗殺を好む。
今でこそ冷酷な犯罪王だが、その過去は北京の篤実な漢方医であり、妻子と共に幸せに暮らしていた。
しかし義和団の鎮圧にあたった西欧列強軍によって、多くの同胞と妻子を殺されたのを機に
白人への復讐と東洋人による帝国建立の野望に燃える冷酷な殺人鬼と化した。
この事からシ・ファン配下時から、暗殺のターゲットは西洋人(特に帝国主義者)に絞っていた。

英国作家サックス・ローマ―によって生み出されたピカロであり、アンチヒーロー。
フー・マンチュー博士は西洋人から見た東洋の国に対する漠然たる不安から生まれた人物だが、
小説が発表された1913年当時を考えると、第一次世界大戦間近であり、世界情勢全体の不安と言った方が良いだろう。
ストーリーはフー・マンチュー博士が起こす事件の究明を、元ロンドン警視庁のデニス・ネイランド・スミス卿がしていく。
これは探偵小説の流れであり、構図自体はシャーロック・ホームズとモリアーティ教授の戦いのそれである。
また博士の不可解極まる犯行はホームズシリーズにおけるスパイとの戦いと同じだ。
このようにホームズシリーズの影響が強いが、推理小説としての注目度高い本家と比べると
犯罪小説の面が強く出ており、また常に博士との戦いを描いているところは本家以上だ。
また作品の人気はアンチヒーローの流れを汲む博士のキャラクター性に因るものもあり、
その悪としての影響と二人の攻防戦は後のジェームズ・ボンドシリーズに影響を与えている。
映画化されたことも何回かあるが、原作自体が殆ど翻訳がされておらず、日本での知名度はモリアーティ教授以下だろう。
話題は変わって、博士の魅力だがやはり犯罪王と復讐者の両面を持つところだろう。
根本は西洋人に対する復讐だが、時に復讐ではなく、犯罪組織の長としての犯行があり、
だが同時に明らかな私怨をも含む。その行動から復讐自体は形骸化したものに感じるが、
やたらと複雑怪奇な計画を練り、時に自身の命すら駒として動かす。
このことから彼の犯行全ては『西洋』に対する憎悪ただ一心だが、
その組織的犯罪は『西洋』という存在を削り潰すための手段と同時に
自らの「悪」の証明と、自身がその同じ「悪」から生み出されたことの証明なのかもしれない。

0 件のコメント: