ゲーム「デッドバイデイライト」に登場。
本名フィリップ・オジョモ。
顔に三本の白線が斜めに入った模様が特徴の長身痩躯の黒人男性。
頭は泥で覆われ、泥で固まった頭髪はまるで樹木の枝のようになっており、
皮膚もまた樹皮のような質感になっている。
上半身には丈の短いマントとショールとスカーフを、
腰にはユーティリティベルトを巻いて、足は包帯を纏っているが、
一見すると全てボロボロなため服装全体に一種の統一感がある。
就職先の上司に殺人の片棒を担がされた後、謎の存在「エンティティ」によって
霧の森へと召喚された。以来、生存者たちを狩り続けている。
鋭い刃に人間の頭蓋骨と背骨がついた凶器「アザロフの頭蓋骨」を右手に、
左手に持った古代の力が込められた古い釣鐘「悲哀の鐘」を使って、
生存者を奇襲する殺人鬼。この鐘はエンティティ由来の品物であり、
おそらく父の遺品である「幸運の鐘」が変化したか、
またはエンティティによる、悪趣味なオマージュと推測される。
鐘中の鳴子を骨や縄で結んだものと変えることで、音の有無や攪拌を変化させ、
様々なエンティティのシンボルや謎の文字を記すことで、自身に古代の力を付与する。
最大の特徴はこの鐘は鳴らすと魂の世界に入り込むことができるとされ、
鐘の力でレイスは自身の姿を透明にすることができる。
このため気配をほとんど悟られることなく、獲物を追跡することができる。
しかし透明になっている間は攻撃できないため、一度鐘を鳴らして姿を現す必要がある。
また遠目ではわからないが、接近された時に目を凝らせば
光の屈折による空間の歪みが若干発生している。
しかも常に鼻づまりのような息苦しい吐息音をしており、
裸足で移動しているが、歩くたびに大きな足音を立てている。
意外にもある程度接近されれば、生存者側は容易にその存在を察知できる。
この能力に対する一種場違いの行動、その理由は不明だが、
過去の出来事が彼から人間性を奪ったことで獣同然の精神状態からくるものか、
はたまた精神が崩壊した茫然自失の状態からの無意識なものなのか、判断はつかない。
彼の出身はナイジェリア北部の小さな村。幼少期は両親や祖母と共に暮らしていたが、
民族浄化を目的とした虐殺部隊によって、幸せな生活は終わりを告げる。
村人は蹂躙され、少年だった彼は父親の遺品である「幸運の鐘」を握り締めて、
両親の帰りを待ったが、両親は帰ってこなかった。
祖母アビゲイルは可能な限り、残酷な真実からフィリップを守ろうと嘘をついたが、
いつしか二人からは、涙しか出なくなった。そして二度目の襲撃を知らせる鐘の音。
二人は間に合わせの壕の中で過ごした。祖母は外から聞こえる不穏な音から
フィリップの気を逸らすため、算数の問題を出し、フィリップは答え続けた。
彼の両親は算数が出来れば、フィリップが聡明な子に育ち、学校の成績が良くなれば、
人生にチャンスをもたらすと信じていた。その両親がもう存在せず、
勉強も遊びも、話もしてくれない事実を認識せざる終えなかった。
そしてそんな祖母も、壕の外から聞こえた子どもの泣き声を放っておけず、
フィリップを残して、壕の外へと出て行ったしまった。
それから何時になったか、死んだ方がマシと考えたフィリップは外へと出た。
腐臭、焼けた匂いが立ち込める外には、祖母の姿はなかった。
両親も祖母も友人隣人も失った。彼はかすれた囁き声で祖母を呼んだ。
その囁き声はいつしか叫びへと変わり、それに対する応えは夜の沈黙だけだった。
何もかも奪われたフィリップの手元には、「幸運の鐘」だけが残った。
天涯孤独となったフィリップは、死を望んだ。
しかしそこへ、フナニャという女性が手を差し伸べた。
死を懇願した彼に対して、フナニャはそれでも生きなければいけない、
生きて証人になり、何が起きたのか伝えなくてはならないと説得された。
フナニャとフナニャに保護された子供たちと共に新しい生活を始める。
しかし虐殺部隊によって廃墟となった住居に隠れ住む生活は、
未だ心の傷が癒えないフィリップにとって、復讐の呼び水となった。
人殺しで金を貰うもの、人殺しに金を払うものを憎悪した。
そんな彼を見て、フナニャは奴らは多くのものを奪うが
人間性を奪うことはできない、だから自ら人間性を手放してはならないと説いた。
しかしフィリップは彼らは代償を払うべきだと、頑なだった。
フナニャは自分たちが生きて証人になるため、慈悲の天使に自分たちの無事を祈るべきだと言うが
フィリップは彼の父が信じたように、金のある人は犯罪を犯すために余裕があり、
そして罪から逃れる余裕があると考え、死の天使に奴らが苦しむことを祈りたかった。
フナニャ曰く、「目には目を」の精神は自分たちを盲目にし、世界を暗闇に包んでしまうと。
しかしフィリップからすれば、先に盲目になったのは世界であり、
自分たちに起こった出来事に対して世界は無関心であり、それが自分たちが奪われ、
屈服させられる理由であり、この世界の数学的な公式であると考えた。
だがフナニャが語る先人の言葉に対して一瞬だけ、彼は彼女が正しいかもしれないと思った。
復讐より先に、世界は無関心でなくなり、自分たちを助けてくれるかもしれないと。
しかしある日の晩。フィリップが夜の見張りをしているときだった。
彼は何日も眠れておらず、その時、一瞬だけ目を閉じてしまった。
その一緒で眠ってしまい、彼が起きたのは次の日の朝だった
飛び上がりながら彼は周囲を確認する。かつて友人だったものが
一つ、また一つと見つかった。そして変わり果てたフナニャの姿を。
夜中に起きた虐殺部隊の襲撃は苛烈であり、彼らはフナニャを拷問し、
足の腱を切った上に、そこへ蜂蜜を塗り、蟻に生きたまま捕食させたのだ。
フィリップは必死になって蟻を払い続けたが、蟻はいくらでも湧いてきた。
フナニャは必死に喋ろうとするが、口からは血が噴き出ただけだった。
彼女の舌は失われており、話すのもままならなかった。
絶望感と罪悪感から座り込み、「ごめんなさい」と後悔と謝罪を口にした。
しかし、ごめんなさいでは彼女は助からない。
ごめんなさいではアリを追い払うことも、死んだ子供たちを取り戻すこともできない。
そんな彼に対して、フナニャは指で地面に書いた。「許す」と。
フィリップは長い間その言葉を見つめ、しばらくすると静かに涙を流しながら
彼女の顔の上に手を下ろし、彼女の苦しみが終わるのを待った。
彼はそうしたくなかったが、しなければならなかった。
望まぬ形ではあったが、彼は一瞬だけ彼女の慈悲の天使となった。
その晩、フィリップは闇に紛れて別の壊滅した村を見つけ、
そこに虐殺部隊が野営しているのを見つける。
おそらくフナニャを殺した連中。あるいは彼の祖母や両親を殺した連中。
理性ではフナニャが許すべきだと語りかけ、祖母が数学の問題で彼の心を宥めようとした。
しかし彼の激しく狂った憎しみの情動は止まることを知らず、復讐を求めた。
焚き火を囲み上機嫌で酒を呷り、虐殺した人々を動物のように扱い嘲笑する奴らには
地獄の苦しみを与えなければならない。そのとき何か古代の邪悪なものが、
別世界から伸ばされた暗い触手が、自身の若く無垢な心を掴むのを感じる。
彼は自分の血管に灯油が流れるのを感じ、そして行動を開始した。
フィリップは銃や武器で全員を相手することを考えたが、慣れてないものを使えば
彼らはおそらく逃げてしまうだろうと考えた。出来れば彼らが苦しみながら消えることを望んだ。
彼は近くにあった灯油を奪い、寝静まった兵士たちの周りに撒いて火を放った。
突然の炎に恐怖した彼らに次々と火は燃え移り、断末魔を上げて焼死していった。
惨状に気を取られたフィリップの体にも火が移り、彼はその場から逃げた。
そして激痛のあまり、倒れこむ。いつの間にか傍らにあった「幸運の鐘」を叩いた。
死の天使が死を告げるかのように。その後、新たなスタートを求めてナイジェリアを飛び出し、
新生活への期待を胸に、フィリップ・オジョモはアメリカへ渡った。
彼は幸運にも自動車解体の仕事にありつく事ができた。
「オートヘイヴン・レッカーズ」。それが彼の新しい生活の場だった。
小さな廃車置場のオフィスで、ボスが裏社会の仕事や警官への賄賂を行っていることに
フィリップは気づいていた。しかし故郷での悲惨な生活を考慮すれば、
取るに足らないことであり、彼自身はその仕事に巻き込まれなかった。
彼はプレス機を操作し、車を廃車にする作業を淡々と続けた。
車をひたすら小さい鉄の塊へと変えていく。
日々、そんなことを続けていた。トランクから血が流れていることに気づくまで。
ある陰鬱な日、たまたま潰してない車に偶然見つけた変化。
彼は車のトランクを開けることを戸惑わなかった。
中にはパニック状態の縛られた若い男がいた。
彼はその男を解放した。 男が10フィートほど逃げたところで
ボスであるミスター・アザロフが男を引き留め、男の喉を掻っ切った。
フィリップは突然の出来事に、ボスへ説明を求めた。
正確には、何がここで行われていたか理解していたが、理性がそれを拒んだのだ。
しかしアザロフが告げた真実は、予想通りのものだった。
アザロフは故郷にいた人でなしどもと同類だった。
廃車置き場は処刑場であり、フィリップはそこの処刑人である。
すべては客からの依頼であり、車と一緒に人間も「廃車」にしていた。
フィリップは知らぬ内に委託殺人を任され、犯罪の片棒を担がされていた。
そして自身の無関心が、不穏な職場とボスへの警戒心を鈍らせ、
奴らと同じ、他者を食い物にする人でなしに自分を変えたのだ。
この事実は、フィリップの精神を急速に狂気へと追いやった。
彼は激昂し、ボスをプレス機の中に投げ入れ、ゆっくりと粉砕した。
アザロフの頭だけが突き出ていたため、頭と背骨を体から引き抜いた。
そして彼は立ち去り、以降フィリップの姿を見た者はいない。
その後、アザロフの所業は明らかとなり、警察が捜索した結果、
廃車に詰められた数百に及ぶ遺体とそれを生み出した首謀者であるアザロフ。
その遺体も首なし状態でプレス機から発見された。
この廃車置き場のオーナーは、金儲けのために死体処理や委託殺人を行っていたようだが、
いつしか快楽のために殺人を行っていたと推測されている。
アザロフが所有していた給油所「ガス・ヘヴン」周辺で失踪者が続出したこと、
またその住居で奇妙な彫刻や版画が見つかり、地下室には犠牲者を監禁していた痕跡があり、
アザロフの精神状態が不安定だったことが、事件に結びついているとされる。
周辺の街は風評を気にして、廃車置き場を閉鎖。ここの出来事を忘れようとした。
しかし夜に明かりが点灯・消灯する様子を見た者から始まり、
次第にプレス機が動く音を聞く者も現れ始めた。
住民は何かがあると疑ったが、彼らは自分達の生活を守るため、見て見ぬ振りをした…
「デッドバイデイライト」において第二のプレイアブルキラーが
このレイスだ。まるで〇レデターのような能力を持ち、奇襲を仕掛ける殺人鬼。
誰もいない。そう思った瞬間、唸り声じみた呼吸音と共に不気味な鐘の音が響き渡る。
まさに神出鬼没。死を告げる天使の前に、恐怖に震え上がるしかない。
しかしリリース直後は便利な透明化のはずが、意外と見えたり、音が聞こえたり、
発動と解除に鐘を鳴らすのが手間だったり、攻撃以外も特定のアクションが行えなかったり。
あらゆる状況において不便というよりも、ゲームにおける不幸を一身に背負った
不憫さは、まるで設定上の生い立ちに比例するようだった。
また板をぶつけられたり、ライトを浴びせられて、「ブモー!」と表現できるような
叫び声を上げたりして、最早ネタキャラ扱い。
しかし度重なるアップデートによるブラッシュアップの結果、
文字通り奇襲に長けた、良いキラーとして地位を得ている。
レイスのゲーム上のあんまりな境遇は置いて、彼の経歴は悲劇としか言えない。
悲劇に悲劇をトッピングした、胃もたれしそうなラインナップ。
人でなしに奪われ続けた結果、慈悲よりも復讐を選び、
自らの不幸の原因に鉄槌を下すが、更なる人でなしの出現により正気を失った。
しかし何より悲劇は、世界が無関心であることを恨んでいた自身が
同じように無関心になってしまった。それに対する罰かのように
彼自身を人でなしに加担させるという、無情な結末。
理性を手放して鐘のように空洞になったと思しき彼が、
時たま出す唸り声や叫び声は、最後に残った人間性が、
鐘のように鳴り響いてるだけなのかもしれない。
腰にはユーティリティベルトを巻いて、足は包帯を纏っているが、
一見すると全てボロボロなため服装全体に一種の統一感がある。
就職先の上司に殺人の片棒を担がされた後、謎の存在「エンティティ」によって
霧の森へと召喚された。以来、生存者たちを狩り続けている。
鋭い刃に人間の頭蓋骨と背骨がついた凶器「アザロフの頭蓋骨」を右手に、
左手に持った古代の力が込められた古い釣鐘「悲哀の鐘」を使って、
生存者を奇襲する殺人鬼。この鐘はエンティティ由来の品物であり、
おそらく父の遺品である「幸運の鐘」が変化したか、
またはエンティティによる、悪趣味なオマージュと推測される。
鐘中の鳴子を骨や縄で結んだものと変えることで、音の有無や攪拌を変化させ、
様々なエンティティのシンボルや謎の文字を記すことで、自身に古代の力を付与する。
最大の特徴はこの鐘は鳴らすと魂の世界に入り込むことができるとされ、
鐘の力でレイスは自身の姿を透明にすることができる。
このため気配をほとんど悟られることなく、獲物を追跡することができる。
しかし透明になっている間は攻撃できないため、一度鐘を鳴らして姿を現す必要がある。
また遠目ではわからないが、接近された時に目を凝らせば
光の屈折による空間の歪みが若干発生している。
しかも常に鼻づまりのような息苦しい吐息音をしており、
裸足で移動しているが、歩くたびに大きな足音を立てている。
意外にもある程度接近されれば、生存者側は容易にその存在を察知できる。
この能力に対する一種場違いの行動、その理由は不明だが、
過去の出来事が彼から人間性を奪ったことで獣同然の精神状態からくるものか、
はたまた精神が崩壊した茫然自失の状態からの無意識なものなのか、判断はつかない。
彼の出身はナイジェリア北部の小さな村。幼少期は両親や祖母と共に暮らしていたが、
民族浄化を目的とした虐殺部隊によって、幸せな生活は終わりを告げる。
村人は蹂躙され、少年だった彼は父親の遺品である「幸運の鐘」を握り締めて、
両親の帰りを待ったが、両親は帰ってこなかった。
祖母アビゲイルは可能な限り、残酷な真実からフィリップを守ろうと嘘をついたが、
いつしか二人からは、涙しか出なくなった。そして二度目の襲撃を知らせる鐘の音。
二人は間に合わせの壕の中で過ごした。祖母は外から聞こえる不穏な音から
フィリップの気を逸らすため、算数の問題を出し、フィリップは答え続けた。
彼の両親は算数が出来れば、フィリップが聡明な子に育ち、学校の成績が良くなれば、
人生にチャンスをもたらすと信じていた。その両親がもう存在せず、
勉強も遊びも、話もしてくれない事実を認識せざる終えなかった。
そしてそんな祖母も、壕の外から聞こえた子どもの泣き声を放っておけず、
フィリップを残して、壕の外へと出て行ったしまった。
それから何時になったか、死んだ方がマシと考えたフィリップは外へと出た。
腐臭、焼けた匂いが立ち込める外には、祖母の姿はなかった。
両親も祖母も友人隣人も失った。彼はかすれた囁き声で祖母を呼んだ。
その囁き声はいつしか叫びへと変わり、それに対する応えは夜の沈黙だけだった。
何もかも奪われたフィリップの手元には、「幸運の鐘」だけが残った。
天涯孤独となったフィリップは、死を望んだ。
しかしそこへ、フナニャという女性が手を差し伸べた。
死を懇願した彼に対して、フナニャはそれでも生きなければいけない、
生きて証人になり、何が起きたのか伝えなくてはならないと説得された。
フナニャとフナニャに保護された子供たちと共に新しい生活を始める。
しかし虐殺部隊によって廃墟となった住居に隠れ住む生活は、
未だ心の傷が癒えないフィリップにとって、復讐の呼び水となった。
人殺しで金を貰うもの、人殺しに金を払うものを憎悪した。
そんな彼を見て、フナニャは奴らは多くのものを奪うが
人間性を奪うことはできない、だから自ら人間性を手放してはならないと説いた。
しかしフィリップは彼らは代償を払うべきだと、頑なだった。
フナニャは自分たちが生きて証人になるため、慈悲の天使に自分たちの無事を祈るべきだと言うが
フィリップは彼の父が信じたように、金のある人は犯罪を犯すために余裕があり、
そして罪から逃れる余裕があると考え、死の天使に奴らが苦しむことを祈りたかった。
フナニャ曰く、「目には目を」の精神は自分たちを盲目にし、世界を暗闇に包んでしまうと。
しかしフィリップからすれば、先に盲目になったのは世界であり、
自分たちに起こった出来事に対して世界は無関心であり、それが自分たちが奪われ、
屈服させられる理由であり、この世界の数学的な公式であると考えた。
だがフナニャが語る先人の言葉に対して一瞬だけ、彼は彼女が正しいかもしれないと思った。
復讐より先に、世界は無関心でなくなり、自分たちを助けてくれるかもしれないと。
しかしある日の晩。フィリップが夜の見張りをしているときだった。
彼は何日も眠れておらず、その時、一瞬だけ目を閉じてしまった。
その一緒で眠ってしまい、彼が起きたのは次の日の朝だった
飛び上がりながら彼は周囲を確認する。かつて友人だったものが
一つ、また一つと見つかった。そして変わり果てたフナニャの姿を。
夜中に起きた虐殺部隊の襲撃は苛烈であり、彼らはフナニャを拷問し、
足の腱を切った上に、そこへ蜂蜜を塗り、蟻に生きたまま捕食させたのだ。
フィリップは必死になって蟻を払い続けたが、蟻はいくらでも湧いてきた。
フナニャは必死に喋ろうとするが、口からは血が噴き出ただけだった。
彼女の舌は失われており、話すのもままならなかった。
絶望感と罪悪感から座り込み、「ごめんなさい」と後悔と謝罪を口にした。
しかし、ごめんなさいでは彼女は助からない。
ごめんなさいではアリを追い払うことも、死んだ子供たちを取り戻すこともできない。
そんな彼に対して、フナニャは指で地面に書いた。「許す」と。
フィリップは長い間その言葉を見つめ、しばらくすると静かに涙を流しながら
彼女の顔の上に手を下ろし、彼女の苦しみが終わるのを待った。
彼はそうしたくなかったが、しなければならなかった。
望まぬ形ではあったが、彼は一瞬だけ彼女の慈悲の天使となった。
その晩、フィリップは闇に紛れて別の壊滅した村を見つけ、
そこに虐殺部隊が野営しているのを見つける。
おそらくフナニャを殺した連中。あるいは彼の祖母や両親を殺した連中。
理性ではフナニャが許すべきだと語りかけ、祖母が数学の問題で彼の心を宥めようとした。
しかし彼の激しく狂った憎しみの情動は止まることを知らず、復讐を求めた。
焚き火を囲み上機嫌で酒を呷り、虐殺した人々を動物のように扱い嘲笑する奴らには
地獄の苦しみを与えなければならない。そのとき何か古代の邪悪なものが、
別世界から伸ばされた暗い触手が、自身の若く無垢な心を掴むのを感じる。
彼は自分の血管に灯油が流れるのを感じ、そして行動を開始した。
フィリップは銃や武器で全員を相手することを考えたが、慣れてないものを使えば
彼らはおそらく逃げてしまうだろうと考えた。出来れば彼らが苦しみながら消えることを望んだ。
彼は近くにあった灯油を奪い、寝静まった兵士たちの周りに撒いて火を放った。
突然の炎に恐怖した彼らに次々と火は燃え移り、断末魔を上げて焼死していった。
惨状に気を取られたフィリップの体にも火が移り、彼はその場から逃げた。
そして激痛のあまり、倒れこむ。いつの間にか傍らにあった「幸運の鐘」を叩いた。
死の天使が死を告げるかのように。その後、新たなスタートを求めてナイジェリアを飛び出し、
新生活への期待を胸に、フィリップ・オジョモはアメリカへ渡った。
彼は幸運にも自動車解体の仕事にありつく事ができた。
「オートヘイヴン・レッカーズ」。それが彼の新しい生活の場だった。
小さな廃車置場のオフィスで、ボスが裏社会の仕事や警官への賄賂を行っていることに
フィリップは気づいていた。しかし故郷での悲惨な生活を考慮すれば、
取るに足らないことであり、彼自身はその仕事に巻き込まれなかった。
彼はプレス機を操作し、車を廃車にする作業を淡々と続けた。
車をひたすら小さい鉄の塊へと変えていく。
日々、そんなことを続けていた。トランクから血が流れていることに気づくまで。
ある陰鬱な日、たまたま潰してない車に偶然見つけた変化。
彼は車のトランクを開けることを戸惑わなかった。
中にはパニック状態の縛られた若い男がいた。
彼はその男を解放した。 男が10フィートほど逃げたところで
ボスであるミスター・アザロフが男を引き留め、男の喉を掻っ切った。
フィリップは突然の出来事に、ボスへ説明を求めた。
正確には、何がここで行われていたか理解していたが、理性がそれを拒んだのだ。
しかしアザロフが告げた真実は、予想通りのものだった。
アザロフは故郷にいた人でなしどもと同類だった。
廃車置き場は処刑場であり、フィリップはそこの処刑人である。
すべては客からの依頼であり、車と一緒に人間も「廃車」にしていた。
フィリップは知らぬ内に委託殺人を任され、犯罪の片棒を担がされていた。
そして自身の無関心が、不穏な職場とボスへの警戒心を鈍らせ、
奴らと同じ、他者を食い物にする人でなしに自分を変えたのだ。
この事実は、フィリップの精神を急速に狂気へと追いやった。
彼は激昂し、ボスをプレス機の中に投げ入れ、ゆっくりと粉砕した。
アザロフの頭だけが突き出ていたため、頭と背骨を体から引き抜いた。
そして彼は立ち去り、以降フィリップの姿を見た者はいない。
その後、アザロフの所業は明らかとなり、警察が捜索した結果、
廃車に詰められた数百に及ぶ遺体とそれを生み出した首謀者であるアザロフ。
その遺体も首なし状態でプレス機から発見された。
この廃車置き場のオーナーは、金儲けのために死体処理や委託殺人を行っていたようだが、
いつしか快楽のために殺人を行っていたと推測されている。
アザロフが所有していた給油所「ガス・ヘヴン」周辺で失踪者が続出したこと、
またその住居で奇妙な彫刻や版画が見つかり、地下室には犠牲者を監禁していた痕跡があり、
アザロフの精神状態が不安定だったことが、事件に結びついているとされる。
周辺の街は風評を気にして、廃車置き場を閉鎖。ここの出来事を忘れようとした。
しかし夜に明かりが点灯・消灯する様子を見た者から始まり、
次第にプレス機が動く音を聞く者も現れ始めた。
住民は何かがあると疑ったが、彼らは自分達の生活を守るため、見て見ぬ振りをした…
「デッドバイデイライト」において第二のプレイアブルキラーが
このレイスだ。まるで〇レデターのような能力を持ち、奇襲を仕掛ける殺人鬼。
誰もいない。そう思った瞬間、唸り声じみた呼吸音と共に不気味な鐘の音が響き渡る。
まさに神出鬼没。死を告げる天使の前に、恐怖に震え上がるしかない。
しかしリリース直後は便利な透明化のはずが、意外と見えたり、音が聞こえたり、
発動と解除に鐘を鳴らすのが手間だったり、攻撃以外も特定のアクションが行えなかったり。
あらゆる状況において不便というよりも、ゲームにおける不幸を一身に背負った
不憫さは、まるで設定上の生い立ちに比例するようだった。
また板をぶつけられたり、ライトを浴びせられて、「ブモー!」と表現できるような
叫び声を上げたりして、最早ネタキャラ扱い。
しかし度重なるアップデートによるブラッシュアップの結果、
文字通り奇襲に長けた、良いキラーとして地位を得ている。
レイスのゲーム上のあんまりな境遇は置いて、彼の経歴は悲劇としか言えない。
悲劇に悲劇をトッピングした、胃もたれしそうなラインナップ。
人でなしに奪われ続けた結果、慈悲よりも復讐を選び、
自らの不幸の原因に鉄槌を下すが、更なる人でなしの出現により正気を失った。
しかし何より悲劇は、世界が無関心であることを恨んでいた自身が
同じように無関心になってしまった。それに対する罰かのように
彼自身を人でなしに加担させるという、無情な結末。
理性を手放して鐘のように空洞になったと思しき彼が、
時たま出す唸り声や叫び声は、最後に残った人間性が、
鐘のように鳴り響いてるだけなのかもしれない。
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