2009年3月5日木曜日

ギャングスター

映画「ギャングスターナンバー1」に登場。
 
本名不明。誰にも名前を覚えてもらえなかった男。
1968年のイギリス・ロンドン。ギャングたちがしのぎを削る時代、
暗黒街の貴公子と呼ばれるフレディ・メイズがその頂点に君臨していた。
汚職警官を殺害し“メイフェアの惨殺者”の異名を持つ男であり
最高級スーツに身を包み、アストンマーチンを乗り回す。
一介のチンピラに過ぎなかったギャングスターは、フレディに憧れた。
彼はフレディに取り入ることに成功し、手下となって次々と悪事をこなし、
裏社会の階段をのぼりつめてゆき、遂にはフレディの右腕と呼ばれるまでになる。
フレディへの尊敬のあまり、しだいにフレディの格好を真似するようになっていくが、
その尊敬の念を憎悪に変える日が訪れる。
ショーガールのカレンという女が現われ、フレディが彼女に惹かれるようになると
いつの間にかフレディは彼女の恋人になっていた。
彼の純粋な憧れの感情は、嫉妬という狂気に形を変えていった。
ある日、フレディのライバルであるレニー・テイラーが
フレディを狙っていると教えられる。彼はその情報を教えた仲間を暗殺。
レニー・テイラーにフレディをわざと襲わせ、同じくその場にいたカレンにも
重傷を負わせた。更にレニー・テイラーを始末し、その罪をフレディに着せて
刑務所送りにした。新たなトップの座を手に入れた彼は
フレディ以上の強硬な手段を用いて、暗黒街の支配者としての地位を確立していく。
そして30年後、歳をとって今や55歳になった彼は充実した生活を送っていた。
しかし、心は満たされなかった。フレディよりも組織を強力に育て上げ
フレディよりも地位も名声も富も手に入れた。
手に入れられるものは全て獲得したはずだった。なのに満たされない。
マフィア連中からは「あいつ」呼ばわりされ、昔の仲間からは
「お前を殺したい」と罵られ、死んだと思っていたカレンからは「怪物」とまで呼ばれる。
そんな中、フレディが出所した。彼はフレディを呼びつけ、自分の下に来させた。
そこに現れたのは栄光に包まれた尊敬すべき対象ではなく
ギャングをやめ、喉を切られたが生き延びたカレンと結婚する予定という、
頂点を極めながらも人を信用しない人生を送ってきた彼と正反対の人生を送った、
ごく普通の中年男性だった。そんなフレディに失望し、罵り、
自分が行った悪行を暴露し、自分を殺せと迫る。
しかしフレディはそんな彼に嘲笑と侮蔑のみを残し、去る。
失望と激情が駆け上がり、自分こそが頂点に立ったと自問自答を繰り返す。
そして彼は屋上から飛び降りた…
 
俺がナンバー1!ナンバー1だ!
俺はキングコングだ!俺はスーパーマンだ!

ギャングスターはすべてを手にしたはずの男である。
しかしすべてを手にしたはずが、本当の意味では何も手にしていなかった。
自分を慕う部下もいない、自分を愛してくれる女もいない。
それは哀れであり、惨めであり、負け犬同然。
全てを手に入れたと思いながらも手に入れていないことを
突きつけられた彼に残された手段は自ら狂い、死にゆくしかなかったのであった。

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